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要約 - Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech

2024-04-22
Abstract
Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech の翻訳記事

前置き

Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech Altering the internet’s economic and digital infrastructure to promote free speech

の要約です。

プラットフォームではなくプロトコルを: 言論の自由への技術的アプローチ

同記事では、プロトコルベースするシステムによって、今日の中央集権的システムの問題を発展的に解決する可能性について論じている。

昨今のインターネット上のプラットフォームは、ことに言論においては、統制が強くなりすぎたり、悪意にまみれている…と考えている人が多い。 また、プラットフォームの社会的影響力が増大するとともに、悪意ある発言へのモデレートに対して、企業の負担が増えている現状がある。

同記事は、その積極的解決方法として、プロトコルベースのシステムに立ち戻ること、持続可能なプロトコルベースのシステムの運用方法に関して提案を行っている。

初期インターネットのプロトコルの問題とプラットフォームの得意分野

この節では、議論の準備として、プロトコルベースのシステムとはどのようなものであったかを述べている。

初期のインターネットはまさにプロトコルベースであった。例えば電子メールの主体はプロトコルだった。共通するプロトコル上に便利な実装を乗せたソフトウェアが市場競争を行っていた。電子メールはプロトコルベースシステムの成功例である。

反対に、一時はメジャーなシステムだったが終焉を見たプロトコルベースのシステムとして Usenet を例として挙げている。

Usenet とはいわゆる Newsgoup と呼ばれるシステムだ。Reddit のような掲示板タイプ情報交換システムである。

(日本だと 5ch のような掲示板システム・・・といったらわかりやすいか?)

Usenet(プロトコルベース)の特徴・問題点は以下の通り。

  • システムの複雑さ
  • ホスティングと運用主体が分散化している
  • ユーザー主体のコンテンツフィルタリング
    • 悪意ある利用に対する、組織的対応方法の欠如
  • システム変更に対する柔軟性の欠如
    • 開発者、ホスティング元、その他関係者間調整の煩雑さ
    • アップデートがホスティング側にゆだねられているが故の、システム更新の一貫性の無さ
  • システムを永続させるためのビジネスモデルの欠如
    • 収益化しているシステムはあったが、どうやらそれらは違法に頒布されたファイルの交換に依っていたらしい

対して、比較するプラットフォームベースシステムは Reddit である。実は、プラットフォームベースシステムは上記を一気に解決できている。

運用の主体が単一の企業であり、エンジニアリングのチームによる活動による一元管理によって、上記問題を解決できるからである。

現在の巨大プラットフォームの問題点

この節では、今日的な中央集権的システムが直面している課題について述べている。

プラットフォームベースのシステムによって、効率よく、使いやすいシステムが登場したかに思われた。Reddit だけでなく、Twitter や Facebook、Youtube などだ。

だが、こちらはこちらでたくさん課題がある。

  • プライバシーを適切に保護しているか、外側からはわからない
    • 数多くの規制当局がこの問題に関心をもっている。実際法規制も作られている
  • コンテンツの取り締まり・規制のための監視やモデレーションにコストがかかりすぎている。特に膨大なユーザーをかかえるプラットフォームに顕著
  • 政治家による規制圧力の増大
    • プラットフォームの社会的影響力増大とともに、法的な免責も少なくなっている
  • モデレーションに基づく規制では、万人が納得する結果が得られない
    • 規制した場合、バンされた側の不満が大きい。しない場合の周囲の不満が大きい。

プロトコルによる救済へ

この節では、電子メールシステム(プロトコルベース)を引き合いし、プロトコルベースのシステムが、市場性・柔軟性の点からインターネット上で持続運用可能なシステムであることを述べている

  • 既存のプラットフォームに対してサードパーティーが UI や フィルタシステムなどの利便性を提供する形は、目新しいものではない。既に成功例がある
  • 電子メールシステムなどが一つの成功例である (SMTP/POP に立脚して便利なメールクライアントを提供するビジネスは既にあった)
  • 電子メールシステムを鑑みると、プロトコルベースは乗りかえが簡単で、サードパーティーの競争をより促す可能性がある
  • Google が Gmail を今でも重要視して、機能を磨いているのは、ユーザーが他のシステムに乗り換えが可能なためである。それで競争が促されている可能性がある。

言論の自由を守りつつ濫用行為の影響を制限する

この節では、プロトコルベースによる自治に近い運用で、どのように言論の自由と、言論の悪用の排除を両立するか述べている。

  • 巨大プラットフォーム上での、手動に近い中央集権型のモデレーションは、限界にきている
  • モデレーションの False Positive/False Negativeがユーザーの大きな不満を生んでいる(ツイッターの「誤Ban」が身近な例か)
    • 今のところ 悪意を強力に防ぎつつ、「False Positive(誤Ban)」をなくす方法は無さそう
  • プロトコルベースのシステムでは、エンドユーザーがフィルタリングの主体になると考えられる
    • フィルタリングに対する納得感が高まる(自分でやってるわけだから)
    • フィルタシステムの市場性が高まり、競争による優れたフィルタが生まれる可能性がある
  • 上記から悪意のあるコンテンツの接触確率を効果的に下げることができ、悪意がペイしない状況を生む可能性が高い
  • フィルタ情報の共有は妨げられないため、悪意や問題のあるコンテンツはすぐ人々で共有される
  • これは大きな裁量を持つ側による言論の封殺にもならない。個人の選択によって見たくないものを見ないようにするだけだからだ。
  • 結果、悪意の有無にかかわらず誰も発言も遮られず、評判の良くないコンテンツはより目立たなくなる

ユーザーデータとプライバシーの保護

この節ではプロトコルベースのシステム上で、プライバシーが保護されるには、ユーザーのデータがどう扱われるべきかについて論じられている。

  • プロトコルベースシステムでは、企業がユーザーデータを集める必要がなくなる(市場のフォーカスはより良いサービスを提供することになるため)
  • データ管理はエンドユーザーに委ねられる。データは恐らくクラウド上に暗号化されてストアされる
  • ハッシュ化や既に集計済みのデータの活用が推奨される
  • ユーザーデータは複数のプロトコルベースシステムに対して、横断的に使用することができる
  • データへのアクセス方法を工夫することで、システム側の意に反したデータ使用を検出できるかもしれない

より大きなイノベーションを可能にする

この節では、プロトコルベースシステムを発展させていくためのコンセプトについて論じている。

  • プロトコルは本質的にオープンなめに、より多くのアイディアが試されやすい
  • 乗り換えが容易なため、市場の評価を問いやすい
  • 市場性が好影響をもたらすと考えられるのは…
    • モデレーションシステム
    • 優れたUI
    • 高性能・高い応答性の実現
    • 情報収集特価型のエージェント、など

新しいビジネスモデルの創造

この節では、プロトコルベースシステムが持続するためのビジネスモデルについて述べている。当時から貨幣的な価値のあるトークン(ビットコインなど)とシステムの融合が積極的に考えられていることが分かる。

  • OpenSSL は社会的意義が高いにも関わらず、ボランティアベースに近い運用だった
  • 運営が危機的な状況でも企業からのサポートは薄かった
  • 旧来のプロトコルベースシステムも結局大企業による買収で吸収された例が多い
  • 異なるビジネスモデルどうしが市場競争している例は多く、ビジネスモデルは競争の源泉となりうる(Dropboxなどのストレージ、AWSなどのホスティング)
  • プロトコルベースシステムになれば広告モデルも変革する
    • 例えば、個人ではなくコミュニティに対して広告を打つ
    • リワードと引き換えに、個人が自己のデータを引き渡す・・・など
  • 暗号通貨的なトークンをシステムに込み、創業者が一部を初めから所有することで、創業者利益を得る・・・など
    • トークンがフェアに扱われるためにはオープンな仕様は必須
  • トークンが価値を持つモデルは、トークンの価値を高める行為・トークンを所有し増やす行為に対して様々な可能性が生まれる可能性がある
    • 実装者やサービスの提供者にトークンを付与する
    • トークンの所有に基づいたユーザーの熱心な支持が期待できる
    • 課金モデルによらない収益化
    • システムが大きくなると関連するトラブルも多く生まれそう

潜在な課題

この節ではプロトコルベースのシステムの潜在的課題について述べている。

致命的な複雑さ

初期のプロトコルベースシステムに対してプラットフォームベースが勝利した背景に、一元化による管理の簡素化があった。

既存のプラットフォームが大規模故に変わることができない

既に大きな利益を生み出しているプラットフォームは、プロトコルベースシステムに変えるインセンティブを持たないかもしれない。 しかし、モデレーションの簡素化や競合との差別化の点で、プロトコルベースシステムを利用するかもしれない。よりオープンな使用が利点となる可能性もある。 また、トークンによる収益化のアプローチが成功すれば、大企業がプロトコルベースシステムを導入する大きな動機になる。

フィルターバブル問題の悪化

悪意を強力に排除しないために、インターネットのある場所が悪意の「掃き溜め」になる可能性がある。 しかし、前述したユーザーレベルのフィルタリングにより、有害なコンテンツはより目立たなくなると考えられる。

好ましくない問題のあるコンテンツへの対応

ダークウェブなどの非合法的なコンテンツは結局今でも警察機構の関与が必用だ。それはプロトコルベースシステムでも同様だろう。 問題が悪化する理由は無いように思われる。もしくはユーザーレベルのフィルタリングが有害コンテンツを生み出すメリットを低減させるかもしれない。

移行がどのように行われるかとその実例

同記事では、Filecoinや、WWW代替のSolid、IndieWebなどのコミュニティを挙げている。 (この記事ではもちろん述べられていないが…X/Twitterから NostrやBlueskyへのユーザー流入はまさにその例かと)

結論

上記理由よりプロトコルベースシステムは、現在のプラットフォームベースシステムの課題を発展的に解決する・・・との結論。

Reference

Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech Altering the internet’s economic and digital infrastructure to promote free speech